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曽根先生の通訳学習相談室

「単語力をつけなさい」と一笑されるのを覚悟で伺います。通訳コース、日英の授業の時に、子供っぽい英文しか作れません。英日で読めたり、訳せたりする単語でも、日英の時にアウトプットできないものが多いのですが、単語力を合理的かつ体系的につけるにはどのような勉強をすればよいでしょうか?(英語通訳コース本科3受講生)

○理解語と運用語の違い

これは「理解語」と「運用語」の問題に関係しています。「理解語」とは、文字通り「読んで(聞いて)分かる言葉」ですが、「運用語」とは「自分が使いこなせる言葉(話したり、書いたりするときに自然に使える言葉)」です。私たちの言語能力においては、当然「理解語」の語彙が「運用語」の語彙を上回っており「運用語」をどれだけ増やしていくかが通訳能力向上の鍵となります。ただ、ここで考えて欲しいのは「理解語」と「運用語」の関係は日→英だけではなく、英→日の問題でもあると言うことです。

皆さんが、英→日の通訳をしていると思ってください。英語のメッセージ(単語や表現)を聞いて、その意味がわかったとしても、そのメッセージを、話し手の地位、職業、立場を反映させ、その場の持つ雰囲気や状況に合致した最適な日本語の表現で、正確に通訳する事ができなければ「優れた通訳」にはなりません。(もちろん英語のリスニング力が不足していて、話し手が述べた英語のメッセージが聞き取れなかったという場合は、そもそも問題外ですが)

考えてもらいたいのは、「英語が理解できても、それを日本語の適切な表現で通訳しているか?」という点です。皆さんも通訳の訓練をしていて経験があると思いますが、これがなかなか難しいのです。「言ってることは分かるんだけど、どう日本語に訳していいか解らない」こういう発言を、私はかなり頻繁にクラスで耳にしたような気がします。

これが「理解語」と「運用語」の違いです。英語、日本語という2言語の関係において、ある言葉を「理解」できても、それに対応する訳語を「運用語」できなければ通訳はできないのです。したがって、「単語を覚える」ことは「理解語」を増やすための重要なステップとして大変結構なのですが、ただ覚えればよいというわけではありません。質問にあるような「体系的に単語力をつける」という意味では「運用語」を増やす訓練をしなければならないのです。

○どうやって運用語を増やすか

先ほど指摘したように「運用語」とは「自分が使いこなせる言葉(話したり、書いたりするときに自然に使える言葉)」ですから、ある言葉を自分の「運用語」にするためには、その単語を繰り返し話したり書いたりして、自然に自分の口から出てくるようにしていかなければなりません。

具体的な訓練としては、(1)単語だけで覚えないようにする、(2)文章で覚える、(3)さらに文章を必ず口に出して反復練習をするという事です。この意味では、やはり基本となるのはシャドウイングです。市販教材なので、「単語力アップ!」などと銘打った物も多数出版されています。このような教材を利用し、単語を覚え、それを付属の英文音声でシャドウイングすることで「運用力」を高めましょう。もちろん、「単語力アップ!」教材でなければダメというわけではありません。どんなものでも構わないのですが、必ず音声をシャドウイングし、単語を意識的に「理解」し、口頭で「運用」できるように慣らしてください。

音声が利用できないものの場合は、必ず「音読」してください。「黙読」は「理解語」を増やすには良いのですが、「運用語」を増やすためには適切とは言えません。何度も言いますが、自分の口からスラスラ出すためには、自分の口を使った練習をする以外ないのです。読売新聞と The Japan News、英語版ニューズウィークと日本語版ニューズウィークの記事などのように、英語素材がありさらにその日本語訳が存在しているものを読み比べ、単語を理解した上でそれらを音読するという訓練も効果的です。

「単語力をつける」という事は大事なのですが、通訳をする上での単語力とはあくまでも口頭で臨時に自然に使いこなせる単語力(運用語)を増やすことだという点を忘れないで欲しいと思います。

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