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曽根先生の通訳学習相談室

今後、特に需要が伸びると思われる通訳の専門分野には、どんなものがありますか?

通訳も翻訳も、あらゆる分野で必要とされる技術ですが、翻訳と違い、通訳者の場合はそれほど厳密に専門分野を分けて仕事をすることはありません。つまり、専門分野があれば、それはそれでよいのですが、特定の分野だけで生活できるほどの需要が期待できないからです。

しかし、通訳や翻訳の需要は「時代を映す鏡」であるのも事実です。1980年代中旬は、日本の経営システムや製造業に関する分野の通訳が、また1980年代後半バブル経済が華やかだった頃は、金融や不動産関係の通訳の依頼が多くありました。最近ではやはり、コンピューターやIT関連の仕事が増えています。ですから、今後どの分野で需要が見込めるかは、将来、どの分野が日本社会や日本経済を動かしていくかによるのです。

ただ、「時代を映す鏡」は、時代の変化により常に変わるという宿命があります。たとえ、ある分野を専門にしても、それが将来的に需要を保障してくれるわけではありませんし、専門にした分野が「時代遅れ」になる可能性を忘れてはなりません。

その中でも、ある程度安定した需要が見込めるのは、やはり情報・通信の分野でしょう。また、医学や薬学は、大変専門性が高く、専門分野にするのは極めて困難ですが、一旦「医学専門の通訳」という評価が定まれば、コンスタントに仕事を確保しやすいと思います。一方、放送通訳の分野をみると、現状ではスポーツや芸能に強いと仕事をもらえる可能性が高まります。放送通訳は、一定の番組を担当すれば定期的な収入を得られるので、安定した職種と言えるでしょう。

また、最近では海外の企業との合併や提携などが進んでおり、日常のミーティングに通訳を必要とする機会も増えています。ただ、こうした分野の知識がある方が当然望ましいのですが、専門分野以前に、まずウィスパリングができることが条件になっている場合が多いのです。ですから、専門知識も大切ですが、ウィスパリング、さらには同時通訳能力を確実に習得することが非常に重要です。

かつては、ビギナー通訳に依頼される仕事も、それなりにありました。例えば、簡単な商談やプレゼンテーション、パーティーでのスピーチや工場見学などです。ただ、最近は英語がわかる人の数が増えていること、コスト意識が高くなっていて、昔のように安易に通訳や翻訳を外部に依頼しなくなってきており、比較的「簡単な」仕事は減っています。日頃から、専門分野を作り、その分野なら通訳できるというふうにしておくと通訳としての付加価値はより高まるでしょう。

ただ、注意しておかなければいけないのは専門分野を優先させ、それに時間と多大なエネルギーをさいても、その分野だけで生活ができるほどの仕事の保障はないということです。かつて、私がまだ通訳者になるための勉強をしていた頃、私も大先輩の通訳者に「仕事をコンスタントにもらえるようにするには、どの分野を勉強したらいいですか?」と尋ねたことがあります。その時、その大先輩はこう答えてくださいました。「そんな事を考えるより、まず一つでも多くの単語を覚え、たくさん本を読みなさいよ。」キツイ一言でしたが、今になってみると大変役に立つアドバイスだったと思います。

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