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曽根先生の通訳学習相談室

「良い通訳者になるためには、良いコミュニケーターであることが必要条件である」ということですが、なかなか自分の意見や思っていることを外国語でスラスラと伝えることができません。どういう訓練をすれば、流暢に話せるようになるのでしょうか。

「良い通訳者になるためには、良いコミュニケーターになることが必要である」ということは言うまでもありません。通訳者は人物Aの話を聞いて人物Bに伝える、言ってみれば「意思伝達のプロ」ですから、高度なコミュニケーション能力を有していなければならないのです。私は「良いコミュニケーター」としての条件は次のようなものだと思っています。

1.自分自身、しっかりした考えを持っている。
2.それをわかりやすい言葉や文章で他人に伝えることができる。
3.その場の雰囲気や相手の心理を敏感に察し、その状況下で最適な表現を使いこなせる。
4.相手の考えや立場を正確に理解する。
5.発音やイントネーションが明瞭で、声も良く通り、聞き取りやすいスピードで話ができる。

胸に手を当てて考えてもらいたいのは、「母国語で話している時に上の1から5の条件を満たしているか?」ということです。母国語で1から5ができない人が外国語でこれらをできるはずがありません。まずは日本語でも1から5ができるように気を配ることが大切です。従って「良いコミュニケーター」となるための訓練をする場合は、日本語と外国語という両方の言語での訓練が必要だということを忘れないでください。具体的な訓練方法としては次のようなことを心がけると良いと思います。

<シャドウイング>

外国語でも日本語でもスピーチや対談、講演会、インタビューなど「人が意見を述べているもの」を教材にシャドウイングする。ニュースのように「何がどこで起こった」といった単なる情報提供ものは「見解や意見」が入っていないという点に注意すること。従ってニュースでシャドウイングしているだけでは効果が上がらない。人の意見に耳を傾けるチャンスを増やし、それを教材にシャドウイングする。

<サイト・トランスレーション>

サイト・トランスレーションとは、文章を目で追いながら(もちろん読みながら)外国語の文章なら日本語に、日本語の文章なら外国語へと口頭で訳していくという訓練法。これは「瞬時にメッセージを把握し訳出する」という通訳としての瞬発力や反応力を養うのに効果的。ただし、この場合も、新聞や雑誌を教材として、社説、インタビュー記事、ニュース解説記事など「人の意見や見解、思想が表現されているもの」をサイト・トランスレーションすること。英語の場合は、朝日新聞と International Herald Tribune / The Asahi Shimbun、読売新聞と The Japan News、ニュース・ウィークの英語版と日本語版など両言語で書かれているものを比較対照しながらサイト・トランスレーションをすると効果的である。

<文を書く>

自分の意見や思っていることを「書いて」表現する。自分の意見を文章で表現できない人間が、口頭で自分の意見を簡潔に分かりやすく表現できるわけがない。文を書くことは自分の意見を整理し表現する能力を養う上で重要な訓練となる。翻訳をするということではないので誤解しないように。自分自身の論理を組み立て、自分の意見を表現しよう。時事問題で注目されている話題を選んで、新聞や雑誌などに投稿してみよう。また、同じように通訳を志している仲間と、それぞれの書いたものを交換し意見を述べ合ったりするのも良い。

<コミュニケーション能力を高めるサークルに参加する>

スピーチ・クラブ、ディベート・クラブ、ディスカッション・グループ、国際交流クラブ、外国語の勉強会などの集まりに積極的に参加する。多くの人と知り合い、意見を交換し合うことがコミュニケーション能力の向上につながる。チャンスがあれば会議や集会の司会なども引き受け、人前で大きな声を出して話をすることにも慣れよう。

以上、良いコミュニケーターになるために必要だと思われる訓練を幾つか紹介しました。良いコミュニケーターであるということは、優れた通訳者になるための必要条件です。言葉や表現に敏感になり、自分の考えを明確に伝えられ、他人の意見を正確に理解できる能力を身につけるようがんばってください。

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