安田 若谷さん
中国語通訳者養成コース「通訳科2」クラス修了
【プロフィール】
子どもの頃から言語を学ぶことが好きで、周囲の大人から「将来は通訳になるかもね」と言われていたことが、今思えば最初の小さな種だったのかもしれません。
実際に社会人になってから、仕事の中で通訳の役割を担う機会があり、その時に感じた達成感と、この仕事に必要な「日々の総合的な学習」に強く心を惹かれるようになりました。
専門的に学びたいと考え学校を探す中で、ISSは授業内容と、社会人でも無理なく通える柔軟なスケジュールが決め手となりました。
通訳に関わる最初の仕事は、IT企業のゲーム部門における社内通訳でした。専門用語や業界特有のスラングも多く、独特な言い回しに慣れるまで時間がかかった記憶があります。ただ、社内の定例会議にとどまらず、異業種交流会やユーザーインタビュー、専門家講座など、幅広い内容と通訳形式に触れられたことは、自分にとって大きな財産となりました。
フリーランス通訳者として初めて現場に立ったのは、美術館での解説業務です。テーマは現代アート。視覚と言語、概念と感情が複雑に絡み合う抽象的な表現の通訳は想像以上に難しく、初仕事としては非常に挑戦的でした。
現在は、自身でスケジュールや体調を管理しながら、通訳の案件を受けています。ありがたいことに、クライアントからご評価いただき、イベントのたびにご指名をいただけるような機会も増えてきました。そうした嬉しい出来事に心を躍らせつつも、日々の鍛錬と謙虚な姿勢を忘れず、ひとつひとつの仕事に丁寧に向き合っています。
ISSでは、国際情勢から文化芸術、経済・産業分野まで、幅広いテーマに触れることができました。
通訳という職業は常に新しい分野との出会いがあるため、「好き嫌い関係なく向き合う力」を育てられたことは、今の仕事の大きな土台になっています。
また、授業では通訳技術だけでなく、打ち合わせの進め方、リサーチの工夫、さらには機材の選び方といった実務に直結する話題も多く取り上げられました。特に印象に残っているのは、先生お勧めのイヤホンで、今も使い続けています。実際の現場でも役立つ知識を多く得られたと実感しています。
さらに、ISSの授業では、予習にかけた時間が、そのまま授業中の安心感や自信に直結する感覚がありました。この感覚は、現在の現場でもそのまま活きていて、判断力や訳出の支えになっています。
一方で、実務で強く感じたのは、通訳技術と同じくらい「現場対応力」が求められるという点です。
通訳者は話された内容を忠実に訳すことが基本ですが、一言一句の訳を続けることが必ずしも正解ではない場面が多々あります。
たとえばある逐次通訳の案件では、イベント前半で登壇者のスピーチが大幅に時間をオーバーし、お昼休憩のタイミングで運営から「時間が押しているので○○の部分は、観客には細かすぎて伝わりにくいため、良い感じに省略して構いません」との指示がありました。
また別の案件では、事前資料に記載されていたいくつかの情報について、会議直前に「この数字はまだ非公開なので、話者が誤って口にしても絶対に訳さないでください」といった要望が出されたこともあります。
こうしたその場ごとの要望を的確に汲み取りつつ、重要な内容は漏らさず伝えるスキルは、実務を通して鍛えられる、非常に大切な力だと感じています。
今後の目標は、すでに積み上げてきた多様な分野での経験を礎にしながら、この職業の特性を存分に活かし、さらに知識の幅と深さの両面を高めていきたいと考えています。
通訳という仕事には、しばしば予期せぬ分野や専門知識との出会いがあり、どんなトピックが飛び出すかはその瞬間まで分かりません。しかしだからこそ、毎回が知的な挑戦であり、自分の枠を越える機会でもあると感じています。
情報が個人の嗜好に最適化されていく現代において、通訳という仕事を通じて受動的かつ能動的に広範な知見に触れ続けられるのは、極めて贅沢で、成長につながる環境だと思います。
通訳という仕事は基本的に一人で立ち向かう孤独な現場であり、同じ原文の他人の訳を聞く機会はほとんどありません。だからこそ、授業の中で他の受講生の訳を耳にできることは、何よりも貴重です。
同じ内容でも表現には無数の選択肢があること、それぞれの訳にその人らしさがにじむこと。それらを肌で感じられる時間を、どうか大切にしてほしいと思います。
自分の訳に自信を持ちながらも、謙虚に学び続けること。その二つを意識すれば、きっと長く続けられる力になるはずです。
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